9月, 2010 Archives

喫茶店の写真展

9月 17th, 2010

現在、盛岡肴町の喫茶店「六分儀」と紺屋町の「クラムボン」で写真展を開催させてもらっている。
どちらもの盛岡の喫茶店を撮影した写真群が並んでいる。

六分儀


今年の春、盛岡のミニコミ誌「てくり」の別冊として、「盛岡の喫茶店」という単行本を上梓した。
著者は僕と文筆家の木村衣有子さん。共に盛岡の素敵な喫茶店に足を運び、写真を撮り、言葉を綴った。
今回の写真展は、この「盛岡の喫茶店」の関連イベントということで、誌面で使用したもの以外のカットも改めてプリントした。

ここ数年、毎年必ずどこかで写真展を開催している。
常設としては、花巻市のフォルクローロ東和で、15点ほどの写真を展示しているが、たいていは1週間ほどの会期で行っている。
ただ、この9月、10月はちょっと連続して、前回紹介したBUZZに加え、今回の喫茶店、そして10月には東京四ツ谷のフォトギャラリーでの展示も予定している。
この状態、僕のなかでは、写真展強化月間に近い。

僕はフリーのカメラマンとして印刷媒体に使われる写真を撮ることが多い。
しかし、写真とは当然ではあるが印刷がすべてではない。
印画紙の質感や大きさ、色彩のグラデーション。写真本来の「生」の力は、写真展でこそ伝わる部分も多い。
近頃は写真展を開催する機会も増えたからか、よけいにそう感じる。

そのため、僕のなかで作品と位置付けするものは、展示を意識しつつ撮影に挑む。
展示を意識するというのは、展示でどのように写真を見せたいかということで、そのイメージからフィルムや印画紙、現像方法などを決めていく。
最近はフィルムの種類は減少方向にあるが、現像や印画紙などを組み合わせることを考えれば、まさに無限といってもよいほどのアプローチがある。
これらの組み合わせのなかから何がベストかを見極めるのは非常に困難だが、いずれにせよ、プロセスの結果が作品の表現に直接結びついていく。
だからこそ、フィニッシュまでのプロセスのひとつひとつにこだわらざるをえない。

また、今はデジタルの全盛の時代で、銀塩写真がずいぶん肩身が狭いけれど、展示におけるイニシアチブは、まだまだ銀塩写真にあると思っている。印画紙の持つ質感、粒状性、グラデーション、色の奥行きなど、丁寧な現像プロセスを経て生み出された銀塩プリントは眼を潤すような美しさを宿す。

クラムボン


今回の写真展用として、僕は、タイプCの大全紙という個人で一般的に現像できる最大サイズの印画紙を用いた。縦横にすると45cm×60cmほどで、絵画と比べるとまだまだ小さなものだが、このサイズの印画紙を現像するには、大きな作業空間とかなりの手間暇を必要とする。
これはやったことがない人しかわからない世界だが、小さなプリントをつくるのとはわけが違う。
また、写真を大きくすることで、写真そのものの質も問われる。
小写真では見極めが難しかった手ぶれや細部への配慮も大伸ばしにすると手にとるようにわかる。アラも大きく拡大されるからだ。

「盛岡の喫茶店」では、秘蔵していたコダックのメタリックテクスチャー(廃番)の大全紙を使い、合計16カットのプリントをつくった。写真展としては少ない数ではあるが、それを仕上げるのにかかった時間は約10日間。毎晩、一日の仕事を終えてから作業を開始し、数枚ずつコツコツと仕上げた。ちなみに僕の方法だと一枚のプリントを仕上げるのに、平均で1時間半は必要となる。

デジタルデータをパソコンでちょいちょいといじって、インクジェットでジーコジーコとやれば楽ちん極まりないが、暗室の中で、感覚を研ぎ澄ませてプリントを制作していく作業は、写真をつくる醍醐味だと思う。写真に埋没する感覚といえばいいだろうか。自らが撮った写真と深く対話する時間がそこにはある。

また、今回はフレームも敬愛する木工作家である和山忠吉氏にハンドメイドしてもらった。
約70cm角の特大木製フレームは、かなり立派で、はっきり言ってしまえば写真の引き立て役以上の存在感を持っている。
写真展では、珈琲の香りを感じてもらうのが僕の願いであるが、もしかしたらフレームに目がいく人も多いことだろう。
撮影者としてはちょっと複雑な気持ちだが、フレームも含めて写真のある喫茶店空間を楽しんでいただければ、とても素敵なことだ。

ぜひ、お足を運んでいただけると幸いです。

写真展情報はこちらから
盛岡のふだんを綴る本「てくり」


●ご案内
集英社文芸サイト「RENZABURO」にて、フォトストーリー『小さな伝記』シリーズの連載を開始しました。
北国の風土から拾ってきた小さな物語たちです。お時間があるときにでもご覧いただければ幸いです。
TOPページ=http://renzaburo.jp/
作品ページ=http://renzaburo.jp/contents/047-okuyama/047_hyoshi_001.html

先日、東京の丸ビルの五階にある「ブラッスリー&ワインカフェ Buzz」というフレンチレストランに伺った。
このレストランのコンセプトは非常にユニークで、食を通じて「旅」を提案している。
シェフ自らが、日本各地を旅し、土地土地の食材を吟味し、それをフレンチに仕立て上げることで、客に食材の育った風土を体験してもらおうという試みだ。
食材の産地として選別される土地は3カ月ごとに交代し、過去、三重と高知の食材で展開してきた。そして今回、岩手が選ばれることになった。


このBUZZで僕の写真を展示することになった。
料理で風土を伝えることはもちろんだが、店内に岩手の風土を伝える写真を展示し、「より体感的に旅をイメージ化したい」ということでご依頼をいただいた。

どのような写真を展示しようかと迷ったが、少し急な話だったので、すでに何度か発表した「Country Songs」というシリーズにすることにした。
このシリーズは、銀座のコンペティションギャラリーであるガーディアン・ガーデン主催の「フォトドキュメンタリーNIPPON 2006」に選出していただいたもので、僕にとっては思い出深い作品だ。
また、現在もこのシリーズは少しずつ進行中で、ほかにもいくつか並行中のテーマはあるが、広い意味での東北性の日常を表現するうえでは重要なシリーズとなっている。


「Country Songs」の具体的な写真の内容はというと、まさにこの土地の日常だ。
耕地を耕す人がそこにいて、北上高地の準平原を疾走する牛たちがいて、雪のなかに草を探す馬がいて、といった感じである。
とりわけ美しいということでもなく、でも穏やかな色彩で彩られている世界には、人間の柔らかな匂いが満ちていて…といった岩手の日々、日常の景色が展開されている。
「日常」というと、個々の生活の断片を思い浮かべるかもしれない。確かにこのシリーズにはそういう一面もあるのだが、土地の上を過ぎていく日常というのがこのシリーズのコンセプトだ。
そして、その日常の中の見えるか見えないかの変化を見つけたいとシャッターを押してきた。こういう言い方をすると、「変化」について、ネガティブな捉え方になるのかもしれないが、僕の中では変化とは、基本的にポジティブなものである。
ただ、何かを得るためには何かを捨てる必要があり、その捨てる何かにも目を凝らしたいと思い続けている。

こういった写真群をレストランの店内に展示したのだが、いくつかの壁を使って20点ほどの写真を展示したので、なかなか見ごたえのある展示風景となった。
フレンチレストランという空間に僕の写真がなじむのかと少し心配もしていたが、ミスマッチ感も含めて、ユニークな空間になっていると思う。また、改めて、岩手の持っているビジュアルイメージは強いものだと感心することになった。


展示にあわせて、スタッフの皆さまのご厚意で、岩手の食材を用いたメニューも試食させていただいた。
フレンチについてはまったくの素人で、味については語ることはできないがとても美味しいものばかりで、素材の持ち味を存分に生かしたスタイルは、被写体の存在に依った僕の写真観に照らし合わせても深く共感できるものだった。

何よりもシェフの小藤憲行さんの情熱的な語り口が印象的だった。シェフによると、今回食材を探すにあたって、岩手各地の食の生産現場に足を運んだという。そのなかには、きのこ採りの名人について山を何時間も歩くといった体験もあったそうで、食材のひとつひとつに対する深い知識と愛情が語り口から感じられた。
こうして、何かをきっかけとして、岩手という存在が一人の人の心をつかんでいくことは、岩手に暮らす者としては本当にうれしいことで、思わず10数年前を思い出した。
10数年前、僕も岩手への旅を通じて、この土地の魅力に心を捕まえられたからだ。

BUZZでの岩手の旅は11月末まで続く。このレストランの席につき、岩手の食材を使った料理と写真で岩手を旅した人たちはどのような感想を持つのだろうか。
願わくば、そのなかのひとりでもいいから、実際に岩手に足を運んでくれればと思う。
北の空気感、土地のスケール感、言葉の響き。旅人の心に残る印象的な世界が間違いなくこの土地にはあると思う。
その前に、まずは東京丸ビル5FのBUZZで予行練習を!


●ご案内
集英社文芸サイト「RENZABURO」にて、フォトストーリー『小さな伝記』シリーズの連載を開始しました。
北国の風土から拾ってきた小さな物語たちです。お時間があるときにでもご覧いただければ幸いです。
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作品ページ=http://renzaburo.jp/contents/047-okuyama/047_hyoshi_001.html
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